第7回 王さま諸君にモノ申す!~国民ALL・“家政婦のミタ”~「選挙権、請願権、国家賠償権」

K.cafe バーチャル憲法カフェ 「選挙権、請願権、国家賠償権」
K.cafe|K.cafe店長 たまろ

バーチャル憲法カフェの連載、お待たせいたしました!
7回目は、憲法十五~十七条の解説です。

とんこさん
とんこさん

憲法十五~十七条の解説をお願いします。

種田先生
種田先生

条文を確認しましょう。

第十五条
公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。
公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。
すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問はれない。
第十六条
何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、何人も、かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。
第十七条
何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。

十五条、十六条を簡単に説明すると「参政権」。とても重要な権利です。そして十七条は「国家賠償請求権」。どちらも大事な権利ですが、先に十七条を解説しましょう。
十七条には、公務員が違法行為をして、国民がその行為により損害受けたら国に賠償してもらうことができる「国家賠償請求権」が書かれています。
例えば、B型肝炎訴訟のCMがやっていますね。これは肝炎の感染リスクがあるにもかかわらず、注射器を回し打ちして子どもに集団予防接種をさせていた問題です。集団予防接種を実施している時、すでに国は感染リスクを把握していたのに予防接種を止めず、その後しばらく回し打ちを続けていて、被害が発生しました。この場合、国民が集団予防接種によってB型肝炎に罹ったことが損害になるので、国に損害賠償を請求できるという権利です。
昔は、王さまが好き勝手をやって国民が被害を受けても、国民は何も言えませんでした。「国には責任がない」という国家無答責の状態だったのです。現代の私たちは「国が国民に損害を与えたら、賠償してよ」というのは当たり前ですが、昔は王さまが何をやっても自由という原則でしたので、王さまをしばるために憲法に書く必要があったわけです。

華ちゃん
華ちゃん

なるほど。過去の人たちが闘って獲得した権利の一つなのですね。

種田先生
種田先生

そうですね。なんでもありの王さまに国民が賠償を求めるなどは考えられなかったですから、考えてみると、十七条は面白い条文です。

とんこさん
とんこさん

B型肝炎の他にはどういうものがあるのですか

種田先生
種田先生

アスベスト訴訟も注目しています。厚生労働省は気づいていたけれど、国は規制権限を適正に行使せずにアスベストが危険な状態で使われ続けて建設労働者が健康被害を受けた問題で、最近、裁判で国の責任が認められました。

華ちゃん
華ちゃん

薬害もそうですか?

種田先生
種田先生

はい。薬害エイズは、血友病の患者さんが必要な製剤を製造する過程において、必要な規制を国が怠ったために起きた問題であると認定され、賠償請求が認められました。他にも警察検に暴力を振るわれて死亡した場合。権力によって人権の侵害を受けた人に対しても国家賠償請求ができます。昔なら無罪放免になっていたことです。

とんこさん
とんこさん

なるほど。昔なら、切り捨て御免とされていたことに、「ちょっとあんた!」とモノ申すことができるようになったということですね。

華ちゃん
華ちゃん

時代の変化に合わせて憲法にも時代の流れが反映されているのですね。
十五、十六条はどんな条文なのですか?

種田先生
種田先生

十五、十六条はまとめると参政権で、参政権の中核は「選挙権」です。限られた特権階級だけでなく、だれでも選挙に立候補でき、投票もできるということです。今となっては当たり前の権利ですが、戦前、参政権はすべての人に認められていたわけではありません。おばあちゃん世代の女性は、権利が認められていない時代を過ごした方もおられるかもしれませんね。

華ちゃん
華ちゃん

戦後、日本国憲法ができて大きく変わったところですね。

種田先生
種田先生

個人を個人として尊重するなら、すべての権利が等しく与えられるべきですが、財産をもっている人や身分の高い人だけに権利が与えられ、強い者が権力を持って、それを子どもが引き継いで「国」という権力を世襲したり、暴力で政権を保ったりしてきました。そういう状況から、参政権は自分たちの幸せのために、自分たちの代表者を選ぶ権利として出てきたのです。さらに、常に政治にかかわることができない中で、国民の幸せのために政治をする職業政治家が出てきました。国民が国民の幸せのために仕事をする政治家を選ぼうということが十五条で定められています。わたしたちの幸せのために働いてくれる人を見定めて選ぶべきで、自分たちが選んで自分たちで決められる。まただれに投票したかを公表する投票制度だと、他人から干渉を受けるなど、怖い思いをすることがあるかもしれず、自由に投票ができないから、非公開で自由に投票できるは秘密で自由に投票できるシステムになっています。

華ちゃん
華ちゃん

選ぶ権利の自由も確保しているのですね。

種田先生
種田先生

日本の選挙制度は課題も多い。選挙に出ようと思っても単純ではなく、供託金というお金が必要です。諸外国では手数料程度を払うことはありますが、日本の場合、数百万円を納めなければならず、それが選挙権の侵害になっています。投票も、決まった時間に決まった場所に行くのが基本で投票そのものがしにくい。最近は期日前投票が広がったり、ショッピングモールに投票所ができたりもしていますが、インターネットでの投票や、駅の改札の隣りに投票所を置くなど、権利を行使するための配慮はまだまだ足りません。まるで国を背負うべき世代に対しては選挙に行きにくくして、比較的、選挙に行ける高齢者中心の投票行動にとどめたいかのようです。かつては外国に住んでいる日本人は投票できず、裁判で投票できるようになるなど、当たり前のところにまだまだ改善点がある。随所で国民が国によって権利を制限されているので、自分たちで自分たちの代表を選ぶ権利として参政権はとても重要です。アメリカは自分たちで選ぶ権利を行使したくて独立したくらいですから。

華ちゃん
華ちゃん

「参政権」=「選挙」くらいにしか思っていなかったけど、中身を聞くと、自分たちの人権を守るためのとても重要な権利と感じました。

種田先生
種田先生

参政権は自分たちの権利を守るために非常に重要です。参政権が国によって制限されている実態があること、私たちは権利を手にしているにもかかわらず、大半の人はその重要性に気づかず、実際に権利を使おうともしないという実態は大きな問題です。今の投票率は、衆議院選挙で50%前後だし、地方の首長選挙も30%程度、参政権を持つ人の約3分の1の人しか投票に行かないのが現状ですから、権力にモノ言う「投票」という正当な手段を使わないで、勝手な言い分を主張するだけではいけないでしょう。投票する権利は持っているだけでなく、行使しないと意味がない。王さまからすれば、「こいつら俺たちが何やっても文句言わないな」と足元を見るようになるわけです。

とんこさん
とんこさん

本当にそうです。身近な人に「選挙行きましょう」と声をかけながら、少しでも投票率が上がるように地道に努力するよりないですね。

種田先生
種田先生

投票率の低さにはもっと危機感を持たないといけない。例えば、投票年齢は18歳以上に変わりましたが、18歳未満はテストなど受けて通れば、参政権を行使できるようにするとか、逆に認知症の高齢者からは権利を返してもらうという議論だってあってもいい。今までの慣例にとらわれず、参政権に関して様々な角度からもっと議論をして、みんなが権利を行使しようとすることが大事です。

華ちゃん
華ちゃん

参政権を行使できるようになった娘と、もっと政治の話をしようと思います。

種田先生
種田先生

十六条は「請願権」が書かれています。具体的には国に対してモノを申すことができる権利です。憲法条文の中で「十六条が大事」と言う人は活動家に多い。請願権は「こういう法律を作って」とか、「こういう行政を執行して」ということを直接、申し入れることができます。選挙の時だけでなく常に「政治に言いたいことがあるから、請願書を出しましょう!」と声高にいうことができる権利なのです。要は個別の内容に対しても国民として意見を言えることがこの権利の大事なところですから、もっと権利を行使することが大事なわけです。

華ちゃん
華ちゃん

例えば、議員が国政報告会をするのも、国民の請求に答えていると言えるのですか?

種田先生
種田先生

そうです。政府も、パブリックコメントなどで国民の意見を聞くこともしています。制度を利用して、選挙以外の時に国民の意見を伝えることは大事です。法律ができる前のパブリックコメントや地方で開かれる公聴会、国会議員が開く国政報告会などを活用して、おかしなところがあれば意見を言うことはとても重要です。権利侵害一般、権力の暴走に歯止めをかける意味でも、参政権と並行して請願権を行使することが大事で、何か困ったことがあったら、憲法十六条を持ち出して、政府や地方自治体に働きかけるといいのです。

とんこさん
とんこさん

「最近知ったのだけど、困った時は憲法十六条がいいみたいよ!」っていう感じかしら?

種田先生
種田先生

簡単なところから権利を行使していくのがいい。監視されていることがわかると、行政も政治家も引きしまりますから。

華ちゃん
華ちゃん

もう古くなっちゃったけど、国民はみんな「家政婦のミタ」バリに政治家や行政を監視することが大事ね!(笑)

種田先生
種田先生

どうせ見るなら、もっと堂々と見たほうがいい!


Illustrations by 佐藤右志

K.cafe|K.cafe店長 たまろ

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次回掲載は、3月28日の予定です。

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